ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

モグラのような生活のなかで【17-4-1】

オーディションの結果発表から日を待たず

早速新作演劇の稽古が始まった

 


不朽の名作の念願の舞台化ともあり

各方面からの注目が集まっていた

 


テンムスは

そんな新作演劇の主演を任された

新人女優ともあり

メディアはこぞって彼女を特集した

二十歳にも満たない可憐な少女の姿は

すぐさま薄汚れた目をした老害たちの

恰好の餌食となった

 


テンムスは

そんなこともあって

おちおち街には出られなかったのだ

一先ずヴリテリーの家に

居候させてもらってはいたが

買い物すら

ろくに行くことは出来なかった

稽古に行く時だって

人目を憚って

身を隠しながら

すぐさまマシンに飛び乗った

 


自分で家を借りる方が

よっぽど友人には

迷惑が掛からなくて良いのだが

この時のテンムスは

もう既に

そんなことも叶わないほど

街中では有名人になってしまっていた

 


稽古の厳しさと

プライベートの窮屈さも相まって

テンムスは極限状態の

精神ストレスに晒されていた

この頃は心力もまともに働かず

勾玉も言うことを利かなくなっていた

 


しかしながら

思い出すのは母との記憶だった

自分が今何故この状況に

置かれて苦しんでいるのか

思い出すことで

辛うじて意識を保つことが出来たのだ

 


そんな日々が続いたある日

彼女は街の道端で倒れ込んでしまった

過労が祟ったのだ

 


 あぁ、終わりだわ…

 今まで積み重ねてきた何もかもが

 一瞬にして崩れ落ちた…

 この街で、わたしの旅は終わりね…

 ごめんね、ダンジョウ…博士…

 身勝手なわたしを許して頂戴…

 


── 薄れゆく意識のなかで、地底帝国の詩。