ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

記憶回路【15-2-2】

ウナージュは貧困地区の

貧しい家庭に生まれた

それゆえ満たされないままの

毎日を送っていた

 


自分のこころを

満たしてくれるものを探して

好奇心の赴くままに

悪事にも手を染めた

しかしながら

彼女のこころが

満たされることはなかった

そればかりか

次第にすり減ってゆくのを

ひしひしと感じていた

 


年頃に成長したある時

ウナージュたちの不良グループが

空き巣に入った時のこと

下見は充分行っており

家主不在の日だったはずだが

偶然室内で鉢合わせてしまった

彼女以外のメンバーは

逃走を図ったが

ウナージュは家主に

捕まってしまった

 


ウナージュはこの時

初めて得体の知れない恐怖に

身体を貫かれる感覚を覚えた

目の前の人物が

どういった性格で

どのような思考を持っているか

まるで予想が出来なかったのである

このまま殺されるかもしれないし

公安警察に突き出されるかも知れない

悪い未来ばかりが

黒い水のように湧き出て来た

 


しかしながら家主の男は

無言でウナージュをリヴィングに座らせ

何か作り始めた

ウナージュはこっそり抜け出そうとしたが

台所の彼はその気配に気づき

後ろを振り返った

まるで自分のこころが

見透かされているようだった

 


テーブルには大きな饅頭が三つ

蒸篭に入って置かれていた

ウナージュは湯気のたつそれを

まじまじ見つめていたが

腹が鳴り始めたので無言で貪った

ふわふわの生地のなかには

あんかけのような液体に包まれた

少しの野菜と鶏の肉が入っていた

 


ウナージュは味わったことのない風味に

空っぽの冷たいこころが

少し温かくなったのを感じた

 


── 語られざる過去、地底帝国の詩。