ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

回想階層【15-2-3】

その男の名前はサンショウ

行く当てのなかったウナージュは

そのまま彼の家の居候になった

ともに生活して行くうちに

ウナージュのなかには

今まで感じたことのない感情が

こころの底から

沸々と湧き上がって来た

冷たく流れていたウナージュの血液は

次第に温かみを帯びて

非行に走ることも無くなった

彼は料理人だった

西の都市の台所で働いていた

決して裕福な暮らしとは言えなかったが

ウナージュはこの生活が愛おしかった

そして彼のこともまた…

 


ある時ウナージュは買い物に出かけると

出先で彼の姿を見かけた

人気のない路地裏に佇む彼は

普段見ることのない

険しい顔を携えていた

 


ウナージュは影に隠れながら

その一部始終を見守った

暫くすると

サンショウのもとに

ひとりの男が近づいて来た

なにか耳打ちしてから

彼に小包を渡して去って行った

 


しかしながら

家に帰ると彼は普段通りだった

特に変わった様子もない

ウナージュは

路地裏で見たことは

幻想だったかも知れない

自分の勘違いだったに違いないとさえ

考えるようになっていた

 


ある時

サンショウは仕事へ行ったっきり

帰って来なかった

いつまで経っても

帰って来ないから

ウナージュは痺れを切らして

外に探しに出かけた

気になっていた

人気のない路地裏を通りかかると

変わり果てた姿のサンショウが

道端に横たわっていた

 


悲しみ、嘆き

ウナージュは

自分のこころがまた

冷たく凍りついてゆくのを感じた

 


── マネキンのこころ、地底帝国の詩。