ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

黄昏時のシンデレラ【10-3-4】

木の上の少女は

ぱっとそこから

飛び降りて

テンムスを

物珍しそうに

覗き込んだ

大丈夫

なんだか

調子が悪いみたいだけれど

大丈夫よ

ありがとう

少女は

肩にかけていた

ポシェットから

何やら水筒のようなものを

取り出した

これ

良かったら

飲んでみて

わたしも身体が

あまり強くないから

いつもこれを

持ち歩いているの

テンムスは

やけに

何かを持ち歩いている

人々が多いと思ったが

この少女に関しては

何故か

自分を騙して

陥れようとしているようには

思えなかった

いただくわ

紅茶か何かのようだったが

口いっぱいに

爽やかな風味が拡がって

たちまち気分は

晴れやかになった

これは

家で栽培している

薬草の紅茶よ

街の人々が吸っているのは

薬草は薬草でも

ハイになるやつね

荒ぶった気分を

落ち着かせるとかなんとか

ありがとう

だいぶ気分が良くなったわ

あなたはシ

シルヴィ

シルヴィと呼んで

シルヴィね

分かったわ

わたしはテンムス

よろしく

少女の名前に

違和感を覚えたテンムスだったが

何か事情があるのだろうと

詮索はしないようにした


── 人には諸々の事情がある、地底帝国の詩。