ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

喪失【11-4-3】

パパ

シルヴィの父親は

胸に包丁を

突き立てられ

ソファーの上で

絶命していた

どうして

酷い

シルヴィは

悲しみに暮れた

自分の母親が

別の者だったことよりも

父親の死が

悲しかった

そこに湧いて来たのは

冷たい怒りだった

無意識に彼女は

鏡の断片を

天に掲げた

良く陽の入る

午後だった

鏡は光を吸収し

なおかつ

シルヴィの心力も

感じ取ったようだった

シルヴィは

ゆっくりと

物置へ戻ると

鏡を胸の前に掲げた

先ほどの様子から

フィナンシエの弱点は

おおよそ分かった

テンムスも

それを察知したのだろう

階段から

シルヴィの姿が見えると

フィナンシエは

途端に怯え始めた

やめろ

来るな

それをこっちへ

向けるな

あなたは

わたしがやめてと言っても

やめなかった

自分のされたら嫌なことは

人にやっては

いけないのよ

冷笑にも

憤怒にも似た

シルヴィの曖昧な表情に

テンムスは

背筋が凍った

その刹那

ぎゃあああああ

断末魔の叫び声が

物置

いや家中に拡がった

フィナンシエは

耐え切れず

自らの背後に

ポータルを形成した

テンムスの身体も

それと同時に

霧のように散り始めた

シルヴィ

テンムス

手を伸ばしたが

伸ばした手は

すんでのところで消えた

フィナンシエも

叫び声を上げながら

ポータルへ

落っこちて行った

物置は

何事もなかったかのように

静寂に包まれた


── 少女は同時にたくさんのものを失った、地底帝国の詩。