ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

ミネラルバランス【11-4-1】

テンムスは

ミズヒキを行った

一か八か

水の精霊に賭けてみた

唇が乾いたが

滴る汗で潤して

なんとか形を保った

何をしているんだ

フィナンシエが

嘲笑うように言った

テンムスは

そんな言葉も無視して

ただ一心不乱に

水の精霊の応答を待った

この間も

フィナンシエは

動かない

いや

動けないんだ

わたしとシルヴィ

フィナンシエの

位置関係から推察するに

ある一定の距離を

とっていないと

いけないのだろう

近過ぎても

遠過ぎても

能力の実態は

未だ不明だが

恐らく距離と

電解質

身体のなかの

ミネラルバランスを

コントロール出来る能力だ

心力がそうさせているのか

この汗の状態は

明らかに脱水症状

干からびた身体に必要なのは

水分と電解質

能力の仕組みに気づいたことを

悟られないようにしないと

そして水はわたしの身体に

いま溢れるほど

存在している

水の精霊の応答が聞こえた

この家に侵入した時のように

精霊へ精神ハックを実施した

念のため意識の半分は

自分へ留めた

テンムスの汗は

瞬く間に蛇のような形をとり

地面を這った

フィナンシエに気づかれないように

テンムスは体表面の汗を

自己調節して

無くなった分を補充した

精霊をそのまま移動させ

シルヴィの元へ

這い寄った


── 勝利のための沈黙、地底帝国の詩。