ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

こころの傷薬【16-4-2】

ダンジョウは

西の都市であった一切を

ニヴィタシィに話した

 


ニヴィタシィは

ダンジョウが話している間

何も言わずに

彼の話を静かに聞いていた

 


 オレは仕事柄

 助けられないなんてこと

 茶飯事だぜ

 だがな

 お前のその感覚は

 忘れちゃいけねぇんだ

 オレだって

 何回も経験してるから

 お前みたいに

 最初に味わった感覚を

 忘れちゃいけねぇと思ってる

 こころについた傷は

 一生消えることはないが

 お前らの世界のガムテープってやつか?

 そいつを張り重ねて

 傷がまた裂けないように

 自分で補強して

 強くしていくしかねぇんだよな

 これがまた

 


 こころにガムテープなんて

 どうやって貼るのさ

 

 バカヤロウ

 例えの話だよ

 比喩だよ、比喩!

 こころってのは

 この奥深くにあんだから

 手で触れるもんじゃねぇだろ?

 


ニヴィタシィは

心臓の辺りを

拳でとんとん叩いた

 


 こころは一度傷ついたら

 割れたガラスみてぇに

 もとには戻んねぇんだよ

 でも傷ついて補強して

 そしてまた傷ついてって

 やっていくとな

 どんどん他人に

 やさしくなれんだよな

 


 なんで?

 


 傷ついた分だけ

 痛みがわかるだろ?

 そういうことさ

 

 傷ついた分だけ

 痛みが分かる…

 


ダンジョウは

ニヴィタシィの言葉が

不思議と腑に落ちた

 


 でも、

 傷つくことが怖くないの?

 


 そんなの怖がっていて

 どうすんだよ!

 生きていけねぇぞ

 アメリケンでいったら

 ずっと守りっぱなしで

 何もしねぇで

 ただやられるのを待ってるだけさ

 


ニヴィタシィは

ダンジョウの一言を

鼻で笑ってあしらった

 


 お前のハートには

 もうでかい傷がついてる

 もういっそ吹っ切れて

 傷つきながら

 前へ進んでもいいんじゃねぇか?

 やらなきゃなんねぇ

 ことがあんだろ

 お姫様にも

 カッコいいとこ、見せてやれよ

 


最後のひと言は

小声だったが

ニヴィタシィの言葉は

ダンジョウのこころに

深く刻まれた

まるで

深い傷に

パテを流し込むように

ダンジョウは

細胞ひとつひとつに

心力が

漲ってゆくのを感じていた

 


── 少年は傷つきながら強くなる、地底帝国の詩。