ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

愛と言う名の音楽【16-4-3】

ここは北西の市街地

偶然入ったスタンドで

タヅクリは

ある音楽に釘付けになった

 


石管楽器から出たその音色は

タヅクリのこころの寂しさを

埋めるように

こころの隙間にやさしく取り入った

タヅクリは生まれてこの方

機械や無機物に夢中だったので

音楽を間近で聞いたことがなかった

 


石管楽器を奏でていた若そうな男は

演奏を終えると

タヅクリに微笑み

 


 気に入ってもらえました?

 


とやさしく呟いた

彼はどことなく中性的で

ふとした時に

女性とも思わせる何かがあった

 


 え、あぁ…

 綺麗な音色じゃったから

 つい聞き入ってしもうたわい

 普段聴くことがないものでな

 


 ここはRubbスタンドなんです

 普段は耳の肥えてる方が

 集まることの方が多いので

 あなたのような方は大変珍しい

 しかし寧ろ嬉しいくらいです

 


 Rubbというのは

 この音楽の種類に当たるのかのう?

 


 ええ、

 石管楽器を吹くと

 吐息が管のなかを擦っていきます

 それと"愛"という意味の言葉も

 含んでいるんです

 どうです?ステキな名前でしょう?

 


 まさしく音色が

 その名前を体現しているようじゃった

 お、そうじゃ

 自己紹介がまだじゃったの

 ワシはタヅクリじゃ

 こう見えて博士をやっておる

 素晴らしい演奏に敬意を表して

 一杯奢らせてくれんかの?

 えと、きみの名前は…

 


 わたしの名前はユヴァです

 

 よろしく

 


タヅクリとユヴァは

互いに握手を交わした

 


 マスター

 彼にも一杯

 やってくれないかい?

 


 承知いたしました

 


スタンドのマスターは

氷の塊を静かに手に取ると

小刻みに削り始めた

丸く削られた氷を

ロックグラスに入れた

 


ふたりの目の前には

ロックグラスに注がれた酒が置かれた

 


 きみの演奏に敬意を表して、乾杯

 


ふたりはグラスをカツンとぶつけて

ひと口飲んだ

スタンドのなかには

Rubbが静かに流れていた

 


── その場所は確かに愛に包まれていた、地底帝国の詩。