ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

救出劇【11-2-2】

テンムスは

二階の窓を

くぐり抜けた後

出来るだけ音を立てず

家のなかを移動した

父親も何処かに

いるからだ

しかしながら

家のなかは

人の気配が感じられないくらい

静まり返っている

吹き抜けの廊下から

ふと下のリヴィングを

見下ろすと

誰かが横たわっているのが

見てとれた

母親は

テンムスの侵入した経路を

確認すると

急いで玄関へ向かった

その間テンムスは

シルヴィの囚われている

中央の物置の鍵を

心力でこじ開けた

手も使うことなく

鍵はひとりでに

下に落ちた

なかに入ると

思いの外暗かった

勾玉があれば

照らせるのに

彼女のもつ勾玉は

かなりの便利アイテムであることを

この時改めて思い知らされた

急いで地下へ降りると

シルヴィを発見した

テンムスは彼女を抱きしめた

ごめんなさい

わたしが来てしまったばかりに

ううん

わたしが悪いの

言いつけを破ったから

そう言い終えると

彼女は固まった

テンムスは恐る恐る

振り返ると

包丁をかざした母親が

鈍い逆光のなか

立ち尽くしていた


── 剥き出しの殺意、地底帝国の詩。