ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

潜入【11-1-3】

精霊の本体は

水分であるため

どんなに狭い場所でも

僅かな隙間があれば

通り抜けられる

精霊はシルヴィの家の

二階の窓の隙間から

なかへ侵入した

念のため

窓の鍵を外しておいた

精霊はまるで

雨漏りのように

静かに床を伝い

家のなかを移動した

シルヴィの幽閉された

倉庫へと向かった

その間

玄関付近を迂回すると

鏡の断片のようなものは

置かれていなかった

わざわざ移動させたのか

あれがどんなものか

知っているのだろうか

テンムスは

母親を怪しんだ

その母親は台所にいたので

難なく倉庫へと

侵入することが出来た

倉庫のなかは

地下への階段があり

精霊を使って

下へと降りて行った

階段は意外と長かった

辺りはかなり薄暗く

シルヴィの姿は

遠目では確認出来なかった

そこで

テレパスを使用してみた

シルヴィの頭のなかへ

チャンネルを繋いだ

シルヴィ

聞こえて

テンムスなの

しっ

気づかれるわ

頭のなかで会話して

必ず助け出すわ

待っていて

でもどうやって

その時だった

誰と喋っているの

母親の声がした

母親は

一気に階段を降りて来た

また後でね

チャンネルを切断し

水の精霊も母親に

踏み潰された

ばしゃあと音がして

テンムスは

自らの身体に

意識を戻した


── 静かなる戦い、地底帝国の詩。