ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

二階の窓へ【11-1-4】

テンムスは

身の丈以上ある

木の棒を手にしながら

即座に茂みを後にし

一目散にシルヴィの家の

二階の窓を目指した

茂みから窓までは

目と鼻の先だ

テンムスが家の敷地に

辿り着いた瞬間

シルヴィの母親が

玄関の扉から出てきた

それは物凄い形相だ

テンムスと

シルヴィの母親は

入れ違いに外に出る

形となったため

お互いの姿は見ていない

シルヴィの母親は

死に物狂いになって

辺りをかぎ回った

手には包丁を持っている

テンムスは

開けておいた二階の窓から

侵入するため

持っていた長い木の棒と

隣の家の壁を使って

棒高跳びの要領で

宙を舞った

まず隣の家の壁を蹴って

助走をつけてから

あとは木の棒に

身体を託した

たのむ折れないで

木の棒はしなり

テンムスの身体を

見事に二階の窓へ運んだ

その瞬間

木の棒は

バキッと音を立てて折れた

シルヴィの母親は

それに気がつき

先程までテンムスの居た場所へ

即座に走った

やはりあの小娘か


── 侵入成功、地底帝国の詩。