ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

シルヴィの家【10-4-3】

ねぇテンムス

ちょっとお祭り

寄ってみない

ええそうね

テンムスとシルヴィは

お祭り騒ぎの街を練り歩いた

テンムスはその間も

黒ずきんの少女か

居ないかどうか

辺りを気にしていた

不意にシルヴィに

手を引かれたテンムスは

少しびっくりしたが

ねぇ

これやってみようよ

シルヴィのあどけない

笑顔を見ると

何もかもが

どうでも良くなってしまうような

そんな気がした

シルヴィは自分の家へ

テンムスを案内した

そこはテンムスが

目醒めた場所だった

ここあなたの家だったのね

シルヴィはきょとんとした顔をした

テンムス

お腹空いてない

そうね

そう言われると

空いているような気もしてきた

じゃあ

わたしがご馳走様したげる

ひとりで居る時間が長いためか

シルヴィはなかなか

要領良く調理を行った

出て来たのは

チーズとソーセージ

レタスの挟まった

サンドウィッチだった

ソーセージは香草と一緒に

軽く火を通してあり

パンにも所々

香草が練り込まれているのか

ほんのり緑色をしていた

先ほど飲んだ紅茶とは

また別の種類の薬草のようだった

うちは近くの農場から

ヤギのミルクを分けてもらっているの

チーズはそれで作ったものよ

テンムスは

そういえばこのような食べ物は

口にしたことがないと思った

恐る恐る口にしてみると

脳の未開の部分に

衝撃が疾ったようだった

美味しい

テンムスは瞬く間に

この食べ物が好きになった

シルヴィがテンムスの顔を見て

嬉しそうにしていると

玄関の扉が開いた


── 不穏な足音、地底帝国の詩。