ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

鏡断片Ⅲ【14-4-3】

モルフェンの花は

硝子のショーケースのような場所に

びっしりと栽培されていた

そして

この部屋一帯も硝子で覆われていた

 


アオダンは

時が止まったかのように

黙り込んでいた

 


 マッチかなんかないの?

 


ダンジョウが訪ねると

 


 そんなものないわ

 火打ち石が有れば十分よ

 


ウナージュがポケットから

火打ち石を出した途端

アオダンが突然口を開いた

 


 冥土の土産に教えてやるよ

 そいつ、マフィアに肩入れしてるぜ

 


 何を言っているの?

 


ウナージュがとぼけたように言ったが

既に頭の後ろに

半度丸が向けられていた

 


ウナージュもそれに気がつき

両手を上げた

 


 嘘でしょう?

 警部補…、嘘だと言ってください!

 


 これが…、現実なのだよ…

 


しゅんっと

アオダンのあたりで

なにかを振り回したような音がしたが

それがなんなのかは分からなかった

 


ただ

次の瞬間には

床に仰向けになった

植物人間の屍が横たわっていた

 


テンムスはタヅクリを守りながら

辺りの警戒を強めた

 


ダンジョウも一先ず戦闘体制をとった

 


小二階にある、薄暗い入り口から

見覚えのある巨体は

プラントの総括長シャオビンだ

華やかな装飾を纏った

美麗な女性が姿を現した

肌は青白く

寧ろ緑がかっているようにも見えた

 


 余計なことを

 ペラペラ喋るんじゃないよ

 この薄汚い野良犬が!

 


 チュローズ閣下

 少々言葉が乱れておりますぞ

 また来たのかね、公安の者たちよ

 マンション街の囮から

 連絡が取れないと思ったら

 やはりまだ嗅ぎ回っていましたね…

 コヴ殿、ご苦労でした

 仕様もない大根芝居に付き合って下さり

 感謝いたします…

 


 何が一体どうなっているんだ…?

 


ダンジョウは

一度に色々なことが起きすぎて

頭がついていかなかった

 


 ホージに…嵌められたのか…?

 

その刹那

床から植物の蔓が飛び出てきて

ダンジョウたちを縛り上げた

 


 ぐっ…

 


 また余計なことをされると困るからねぇ

 動けないようにしておかなくちゃ

 あら、そうそう

 あなたたちが探している鏡はこれかしら?

 


チュローズは胸元から

静かに鏡の断片を取り出した

 


 お前、やっぱりパウンドの手下だな?!

 


ダンジョウは

前のめりになりながら叫んだ

 


 手下だなんて人聞きの悪い…

 副官という役職に就いておりますことよ?

 司祭パウンド様の副官のひとり

 チュローズですわ

 モルフェンなんて

 いくらでも栽培できますことよ?

 煮るなり焼くなりして頂戴

 


 さぁ、決まりのようですね…

 では取引をいたしましょう…

 鏡を引き渡す代わりに

 彼女の生命を頂くか…

 彼女を引き渡す代わりに

 鏡を粉々にするか…

 

 くっ…汚いぞ…!

 

ダンジョウの心力が唸りをあげて

込み上げてきたが

縛られている植物の蔓が

どんどん成長して

縛る威力を増していることに気がついた

 


 くっそ〜…!!

 


バリィィィィィィン!!!!

 


砕け散った硝子の壁の

雨が降り注いだ

その後すぐに

タツムリバイクが

勢いよく飛び込んで来て

大きく床へ滑り込んだ

タツムリバイクは

モルフェン畑を

燃やしながら

爆発を起こした

 


搭乗者は転がりながらも

すっくと立ち上がると

被っていたヘルメットを脱いだ

 


 ふぅ〜、すまんな

 バイクダメにしちまった

 


 シャッケイさん?!

 


その人物は

彼らの操作に同行しなかった

公安警察巡査部長のシャッケイだった

 


── ヒーローは遅れてやって来る、地底帝国の詩。