ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

壮大なかくれんぼ【2-2-4】

テンムスの身なりは

地底人であることを

微塵たりとも

感じさせなかった

地底人特有の

模様を描いた化粧も

先ほど着替えた際に

落としてしまったので

地上にいるような

ありふれた女性だった

ただ

この世界では異質

そのものだったので

誰にも見つからないように

しなくてはならなかった

地底帝国へ迷い込む

地上人は後を絶たないが

その末路を

彼女はよく知っていた

防壁の付近には

帝国軍の傭兵が

うろついており

ふたりは足早に退散した

テンムスは出来るだけ

人間に会わないように

物陰を伝いながら

少しずつ祭壇を目指した

一方ダンジョウの身なりは

地底人そのものだったが

地底人にしては

目の色が少し

綺麗すぎるかも知れない

彼らは殆ど目が見えないか

無い者が殆どで

目のある者に関しては

白内障のように

白く濁っていたりする

ダンジョウの瞳は

鮮やかな深緑色をしていた

ただ

テンムスの衣装は

明らかに一般庶民とは

かけ離れた衣装だったので

装飾などを最低限取っ払って

極力一般庶民の衣装に

近付ける努力をした

これは少年が

ここで生き抜いていく上で

出来る限り考えた策だった

ダンジョウは

防壁の近くを離れ

繁華街の賑わう人々のなかへ

溶け込んで行った

意外にもばれずに

すんなりと進んで行けた

人がかなり多く

ピラミッドを見失ってしまった

地図か何かを買おうと

店舗を探したが

それらしい店は

見当たらなかった

ところどころに

帝国軍の傭兵が立っていた

見つからないように

努力したが

とうとう怪しまれて

追いかけられてしまった

行き交う人々の合間を縫って

少年は必死で逃げ続けた

そのときだった

路地裏の陰から

手が伸びて来て

ダンジョウの首根っこを掴んだ


── 逃げ回る少年の運命やいかに、地底帝国の詩。