ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

ウォーキング・ブレッド Ⅷ

ぼくには三つ上の兄がいた

けれども

ぼくが十三歳のある日

交通事故で死んでしまった

その日は兄と

朝から喧嘩をしていて

ちょっと悪いと思ったから

帰って来たら

謝ろうと思った

けれども

兄が帰って来ることはなかった

その日から

ぼくのこころは

齧ったバタールの生地の

ところどころに空いた

空間のように

すかすかに風を通し

続けていた

ずっと空っぽのまま

こころの孔を埋めるために

躍起になって生きて来たが

今のいままで

埋まることはなかったのだ

パンを散歩させているのを

見たこともきっと

疲れが生じている所為だと

勝手に思い込んでいた

ふと店に入って

貸しパンを

選んでからのことを

思い出していた

店に再び戻って来たとき

ぼくの選んだパンは

見当たらなかった

帰って来るや否や

目の前にいる

彼が立っていたのだから

 

── 彼の、正体とは。