ヒトリゴ島

生きとし生ける、ひとりごと。

置いてかれる恐怖【4-4-2】

ダンジョウの脳裏に

小さい頃の記憶が

蘇って来た

鬱蒼とした森のなか

木々の迷路が

行手を阻む

行けども行けども

幹ばかり

終いには幹の模様が

人の顔に見えてきた

父に置いてかれてゆく

知らない何かに

追いかけられている

その日彼は

森のなかで過ごした

直ちに捜索願が出された

ダンジョウの父は

息子を見失ってしまったことを

こころから悔やんだ

数日して

ダンジョウはようやく

保護された

今も父は

あの日のように

悔やんでいるかも知れない

ぼくはここを抜けて

地上へ帰らなくてはいけない

今はまだ方法がないけれど

この世界を巡れば

帰る方法が見つかるかも知れない

こころを覆っていた恐怖は

いつしか原動力へと変わり

恐る恐るではあるが

ダンジョウは

切り立った崖への

一歩を踏み出した


── 恐怖も生きる希望に変えて、地底帝国の詩。